親が残した財産の大部分が、
賃貸マンション、アパート、テナントビル、駐車場、事業用土地などの不動産だった場合、遺産分割は簡単ではありません。
預金なら金額に応じて分けられますが、不動産はそうはいきません。
「兄がマンションを取るなら、自分はいくら受け取るのか」
「このビルは本当に1億円の価値があるのか」
「古い物件ばかり自分に押し付けられるのは納得できない」
「代償金を払いたくても、現金がない」
といった問題が生じます。
さらに北海道の収益不動産では、築年数だけでなく、除排雪費、ロードヒーティング、設備更新など、所有し続けることで発生する負担も無視できません。
重要なのは、不動産を単に「価格」で並べることではありません。
現在の価値、将来の収益、維持費、換価可能性、誰が管理できるのかまで含めて、相続財産全体の中で配置を考えることが必要です。
そして、遺産分割を安易に「共有」で終わらせると、その後に売却、修繕、建替えをめぐる新たな紛争が始まることもあります。
本ページでは、収益不動産に偏った相続について、評価・分割方法から、共有を残した場合の共有物分割まで、実務上の流れに沿って整理します。
目次
- 1 遺産が収益不動産ばかりで分けられない
- 2 ― 相続で起きる評価・分割トラブルと、その後の共有解消 ―
遺産が収益不動産ばかりで分けられない
― 相続で起きる評価・分割トラブルと、その後の共有解消 ―
収益不動産に偏った相続でよくあるトラブル
預金や上場株式が十分にある相続であれば、ある相続人が不動産を取得し、他の相続人には現金を配分するという方法を採りやすくなります。
しかし、遺産の大部分が不動産である場合には、そうはいきません。
相続財産の額そのものは大きくても、自由に動かせる現金が少ないからです。
現金が乏しく、代償金を用意できずに分割が止まる
たとえば、遺産として、
賃貸マンション1億円、テナントビル8,000万円、預金2,000万円
が残され、相続人が兄弟2人だったとします。
兄がマンションとビルを取得したいとしても、弟の取り分を調整するためには相当額の代償金が必要になります。
ところが、不動産を多く保有しているからといって、代償金を直ちに支払えるとは限りません。
むしろ、
「資産はある。しかし現金がない」
というのが、不動産中心の相続で典型的に起こる問題です。
不動産を残したいという希望だけではなく、代償金をどこから調達するのかまで考えなければ、分割案は成立しません。
物件ごとの価値の差をめぐって取り分が折り合わない
複数の収益不動産がある場合、
「マンションは兄、ビルは弟」
と物件単位で分ければよいようにも見えます。
しかし実際には、
取得価格、現在の時価、年間賃料、空室率、修繕予定、立地、築年数、借入残高
などが物件ごとに違います。
現在の評価額が同じ1億円でも、
一方は安定した賃料を生む築浅マンション、もう一方は近い将来大規模修繕が必要な築古ビル、
ということもあります。
したがって、「いま何円か」だけを揃えても、公平な分割になるとは限りません。
築年数の古い物件や除排雪負担の重い物件を誰も引き取りたがらない
特に北海道では、不動産の価値を考えるとき、冬季管理を無視できません。
築古物件では、
除雪・排雪、ロードヒーティング、屋根・外壁、給排水、暖房設備
などに継続的な費用が発生することがあります。
高額な評価額が付いていても、
「毎年の維持費が大きい」
「大規模修繕が近い」
「空室が増えている」
という物件であれば、相続人が取得を望まないこともあります。
ここでも、表面的な評価額だけではなく、保有後に何が起きるかを見る必要があります。
同じ物件でも、路線価・固定資産税評価額・時価で評価額が食い違う
不動産には、ひとつの「絶対的な価格」があるわけではありません。
相続税を計算する場面では路線価等が使われます。固定資産税には固定資産税評価額があります。しかし、遺産分割で実際の財産価値を考える場面では、これらの税務上・行政上の評価額が当然にそのまま結論になるわけではありません。
実際に売却した場合にいくらになるのか、収益物件としてどれだけの収益力があるのか、といった観点も問題になります。
そのため、
「相続税申告では7,000万円だった」
という一言だけで、他の相続人が7,000万円として受け入れなければならないわけではありません。
不動産会社による査定、実際の取引事例、収益状況、必要に応じて不動産鑑定士による鑑定などを使いながら、目的に応じて評価を整理します。
特に複数物件がある場合には、一棟だけを高い・安いと争うより、すべての不動産を同じ前提で並べ直すことが重要です。
収益不動産をどう分けるか──現物分割・代償分割・換価分割・共有
収益不動産の分け方には、大きくいくつかの方向があります。
現物分割は、複数の不動産を相続人ごとに分けたり、土地を物理的に分けたりする方法です。
代償分割は、一人が不動産を取得し、その代わりに他の相続人へ金銭を支払う方法です。
換価分割は、不動産を売却し、その売却代金を分けます。
そして、相続人複数で共有する方法もあります。
問題は、どの方法が法律上可能かだけではありません。
たとえば、
「先祖からの土地なので売りたくない」
という理由で代償分割を選んでも、代償金を支払えなければ成立しません。
反対に、売却してしまえば公平に分けやすいとしても、その物件が長期的に安定した収益を生む資産であれば、売却が経済的に合理的とは限りません。
何を守り、何を現金化し、誰に何を持たせるのか。
ここを決めることが、不動産相続の中心になります。
「とりあえず共有」で残すと、売却も建て替えも難しくなる
話がまとまらないと、
「とりあえず兄弟2人の共有にしておこう」
という結論になることがあります。
しかし、これは問題を解決したのではなく、将来へ送っただけという場合があります。
共有不動産では、管理行為や変更行為について共有者間の調整が必要になります。
さらに、
一人は売りたい、もう一人は持ち続けたい。
一人は修繕したい、もう一人はお金を出したくない。
一人の子供は不動産に関心があるが、もう一人の子供は早く現金化したい。
という問題が、次の世代まで続くことがあります。
相続がもう一度起これば、共有者はさらに増える可能性があります。
したがって、共有を選ぶのであれば、
「いま揉めないから共有」ではなく、共有を維持できる管理構造が本当にあるのか
を考える必要があります。
話し合いで決まらないときの共有物分割請求訴訟
ここは、遺産分割と共有物分割請求を区別する必要があります。
被相続人が所有していた収益不動産について、まだ共同相続人間で遺産分割をすべき段階にある場合、原則として家庭裁判所の遺産分割手続によって解決します。
民法258条の2も、相続財産であって共同相続人間で遺産分割をすべき共有物について、原則として通常の共有物分割によることはできないと定めています。一定の場合について相続開始から10年経過後の例外規定もありますが、通常の相続直後から自由に共有物分割訴訟へ移れるわけではありません。
これに対して、遺産分割の結果、兄弟それぞれ2分の1ずつで不動産を取得するなど、通常の共有状態が成立した後に共有関係を解消したくなった場合には、共有物分割請求が問題になります。
共有者間で協議がまとまらなければ、裁判所に共有物分割を請求できます。現行民法258条は、裁判所が現物分割のほか、一方の共有者に他方の持分を取得させる方法を命じることができ、これらによる分割が困難又は価格を著しく減少させるおそれがある場合には競売を命じ得るとしています。
つまり、
相続開始
→ 遺産分割
→ 共有を残す
→ その後、共有関係が維持できなくなる
→ 共有物分割
という時間軸です。
「とりあえず共有」という判断は、場合によっては、将来の共有物分割訴訟の入口を作る判断でもあります。
収益不動産の評価・分割を進める際の実務上のポイント
最初に「誰がどの物件を欲しいか」から話を始めると、紛争が混線しやすくなります。
先に、物件ごとに、
所在地、用途、権利関係、時価、賃料収入、借入、空室率、管理費、修繕履歴、将来必要となりそうな修繕、冬季維持費、売却可能性
などを整理します。
そのうえで、各物件について、
持つ価値と、持ち続ける負担
を並べます。
さらに、相続財産全体として、
金融資産で代償金を出せないか、物件の一部だけを売却できないか、借入れによる資金調達が可能か、複数物件を組み合わせて相続人間の価値を調整できないか、
という順序で分割案を作ります。
重要なのは、不動産一棟ごとの勝ち負けにしないことです。
物件数が多く、資産額が大きくなるほど、相続財産全体を一枚の地図として見る必要があります。
これは、問題を個別論点の集合ではなく、構造として把握して判断するという当事務所の実務姿勢とも一致します。アップロードされた全体構造図でも、「現実を圧縮・構造化し、判断可能な状態にする」ことが実務への基本的な接続として位置付けられています。
収益不動産の分割は自力で解決できる?弁護士が必要になる場合
物件が一つで、相続人間の関係も良好であり、取得希望者も決まっていて、評価額について大きな争いがないのであれば、当事者間で解決できる場合もあります。
一方、複数の収益物件があり、物件評価が大きく食い違う、代償金が高額になる、誰も取得したくない物件がある、管理をしている相続人と他の相続人が対立している、既に共有となっている、売却か保有かで意見が分かれている、といった場合には、一論点ずつ話し合っても全体がまとまりにくくなります。
特に、
「誰が何を取るか」
「いくらと評価するか」
「不足分をどう調整するか」
「将来その資産を誰が管理するか」
の四つが同時に動く場合には、早い段階で全体を整理する意味が大きくなります。
収益不動産の相続を弁護士に相談するメリット
第一に、遺産分割と、遺産分割後の共有物分割を区別して、適切な手続を選べます。
第二に、不動産評価について、税務上の評価と民事上の分割のための評価を混同せず、どの資料・評価方法を使うべきか整理できます。
第三に、代償分割、換価分割、複数物件の組合せなどについて、相続財産全体から条件を組み立てることができます。
第四に、管理中の家賃収入、修繕費、除排雪費その他の維持費についても、遺産分割とは別に必要な整理を行うことができます。
そして、収益物件が多数ある相続では、問題は「不動産を均等に分ける」ことではなくなります。
どの資産を残すのか。
どの資産を現金化するのか。
誰が管理主体になるのか。
次の相続まで耐えられる形になっているのか。
そこまで見て分割を考える必要があります。
遺産が収益不動産ばかりで分けられずお悩みの方へ
不動産が多いことは、必ずしも「分ける財産が十分にある」という意味ではありません。
資産総額が大きくても、現金が乏しければ代償分割ができない。
評価額が高くても、修繕負担の重い物件なら誰も欲しがらない。
収益性の高い物件なら、逆に複数の相続人が取得を希望する。
このように、収益不動産の相続では、資産額の大きさそのものが分割を容易にするとは限りません。
当事務所では、不動産一件ごとの主張だけを見るのではなく、
評価
収益
維持費
代償資金
管理能力
売却可能性
相続人間の利害
将来の共有リスク
を一つの構造として整理します。
そのうえで、どの財産を誰に配置し、どこを金銭で調整し、どこで共有を終わらせるべきかを考えます。
収益物件が複数あり、何から整理すべきか分からなくなっている場合には、まず事情をお聞かせください。
関連記事
遺産分割中に発生する家賃収入や修繕費・除排雪費の清算についてはこちら
► 「遺産分割でもめている間の収益物件の家賃収入の分け方と維持費の清算方法」
不動産を取得する・売却する・共有を解消する方法をまとめて確認する場合はこちら
► 相続専門HP「土地や建物、不動産の相続問題を弁護士に相談するなら」
なぜ不動産の価格だけでなく、収益・管理・家族関係まで全体から整理するのかについてはこちら
► 「事業・資産・家族の想いをつなぐ相続戦略|札幌の弁護士」