相続人全員で話し合わなければならないのに、
「兄が道外に住んでいて話が進まない」
「何度連絡しても返事をしてくれない」
「何年も音信不通で、今どこにいるのかさえ分からない」
ということがあります。
遺産分割は、相続人の一人を除外して勝手に成立させることはできません。
しかし、全員が自発的に話し合いへ参加するまで、いつまでも待ち続けなければならないわけでもありません。
重要なのは、
遠方にいるだけなのか
連絡は届くが協議を拒否しているのか
所在そのものが分からないのか
を区別することです。
状況によって、戸籍・戸籍の附票による調査、遺産分割調停、不在者財産管理人など、採るべき手続が変わります。
特に、複数の不動産、収益物件、非上場株式などがある相続では、一人の相続人との連絡がつかない間にも、財産の管理や会社経営を続けなければならないことがあります。
本ページでは、相続人との連絡や協議が進まない場合について、所在調査から遺産分割調停・審判まで、実務上の進め方を整理します。
目次
- 1 遠方・非協力・音信不通の相続人がいて協議が進まない
- 2 ― 遺産分割調停・審判へ移行するときの実務上のポイント ―
遠方・非協力・音信不通の相続人がいて協議が進まない
― 遺産分割調停・審判へ移行するときの実務上のポイント ―
協議が進まない相続でよくあるトラブル
相続が始まったからといって、相続人全員が同じように遺産分割を進めたいと考えているとは限りません。
早く整理したい人もいれば、
「今は関わりたくない」
「その条件では話し合いたくない」
「他の兄弟とは連絡を取りたくない」
という人もいます。
また、長年親族との交流がなく、そもそも現在の住所が分からないこともあります。
まず重要なのは、「協議が進まない」という結果だけを見ず、なぜ進まないのかを分けることです。
相続人が道外・遠方にいて、書類のやり取りだけで何か月も過ぎる
北海道の相続では、子どもたちが東京・大阪その他の道外へ移り住み、相続開始時には相続人が全国に分散していることも珍しくありません。
もっとも、遠方に住んでいるからといって、必ずしも全員が一か所に集まって遺産分割協議をする必要があるわけではありません。
問題は距離そのものより、
- 誰が資料を集めるのか
- 財産内容について共通認識があるか
- 分割案を誰が作るのか
- 修正案をどうやり取りするのか
が整理されていないことです。
資料を小出しに送り、その都度意見を求めていると、数か月経過しても何も決まらないことがあります。
特定の相続人が話し合いそのものを拒み、返答をもらえない
住所も電話番号も分かっている。
手紙も届いている。
しかし、返事がない。
この場合は「所在不明」とは違います。
相手が話し合いに参加しない以上、任意協議だけを続けても状況が変わらないことがあります。
何度も、
「返事をしてください」
と連絡を繰り返すことが、本当に次の一手なのかを考える必要があります。
任意協議を続ける段階なのか、家庭裁判所の手続へ移す段階なのか。
その切替えが必要になります。
相続人の一人と音信不通で、住所も生死も分からない
より難しいのは、長期間音信不通になっている場合です。
親族も現在の住所を知らない。
電話番号も分からない。
海外へ行ったと聞いたが、その後どうなったか分からない。
このような場合でも、
「連絡が取れないから、その人を除いて分ける」
ことはできません。
まず、その人がどこにいるのかを調査する必要があります。
それでも所在が判明しない場合には、不在者財産管理人や、状況によっては失踪宣告といった制度の検討が必要になります。
まずは戸籍で「相続人が誰か」を確定する
遺産分割の出発点は、
誰が相続人なのかを確定すること
です。
家族が把握している親族関係と、法律上の相続人が必ずしも一致するとは限りません。
被相続人について必要な戸籍をたどっていくと、
- 前婚の子がいる
- 認知された子がいる
- 養子縁組がある
- 既に死亡した子に代襲相続人がいる
と判明することがあります。
特に資産や事業を長年維持してきた家庭では、
「ずっとこの家族だけでやってきたから」
という生活上の認識と、法律上の相続関係を混同しないことが重要です。
遺産の調査を始める前後で、まず相続人の範囲を確定します。
連絡が取れない相続人の住所は、戸籍の附票で調べられる
相続人であることは分かったものの現在の住所が分からない場合には、戸籍の附票などから住所を調査できる場合があります。
戸籍の附票には、その戸籍に在籍している間の住所の履歴が記録されています。
したがって、
「親族の誰も住所を知らない」
ということと、
「法的な調査をしても所在が分からない」
ということは別です。
まず公的資料をたどって所在を確認し、判明した住所へ連絡を試みます。
この段階で相手に連絡が届けば、問題は「所在不明」から「協議に参加するかどうか」の問題へ変わります。
それでも行方が分からないとき──不在者財産管理人・失踪宣告
公的資料などを調査しても所在が分からない場合には、家庭裁判所の手続を検討することがあります。
代表的なものが不在者財産管理人です。
不在者財産管理人は、従来の住所・居所を去って容易に戻る見込みのない人について、その財産を管理する者を家庭裁判所が選任する制度です。
遺産分割協議に関与する場合には、管理行為を超える行為について家庭裁判所の許可が必要になる場合があります。
また、長期間にわたり生死そのものが分からない場合には、失踪宣告が問題になることもあります。
もっとも、
「返事をしない」
「親族と絶縁状態である」
というだけで、直ちにこれらの制度を使うわけではありません。
所在が分かっているが応答しない人と、本当に所在不明の人を区別する必要があります。
相手が話し合いに応じない・遠方で集まれないときの遺産分割調停
任意の話し合いで遺産分割がまとまらない場合には、家庭裁判所へ遺産分割調停を申し立てる方法があります。
遺産分割調停は、裁判所の調停委員会を介して相続人間の合意形成を図る手続です。
裁判所は、遺産分割調停について、当事者双方から事情を聴き、必要に応じ資料等を提出してもらいながら、解決案を提示したり助言したりして合意を目指す手続と説明しています。裁判所「遺産分割調停」
ここで大切なのは、
「調停を申し立てる=全面対決」ではない
ということです。
むしろ、任意協議では何か月たっても返答がなく、相続人間だけでは議論の入口すら作れない場合に、裁判所という第三者を入れて話合いの枠組みを作る意味があります。
遠方に居住する相続人がいる場合についても、現在の裁判手続ではウェブ会議等が利用される場面があります。具体的な利用可否は裁判所・事件の進行によりますが、「全員が札幌へ何度も集まらなければ調停できない」と決めつける必要はありません。
調停でもまとまらないときは遺産分割審判へ
遺産分割調停で合意できなければ、原則として遺産分割審判へ移行します。
審判では、当事者の合意だけに委ねるのではなく、裁判官が法令や提出された資料、各当事者の事情などを踏まえて分割方法を判断します。
したがって、
「相手が同意しない限り、遺産分割は永遠に終わらない」
というわけではありません。
一方で、審判になれば、こちらが希望する分割案がそのまま採用される保証もありません。
そのため、
「相手が返事をしないから、すぐ審判まで行けばよい」
という発想でもありません。
調停の段階から、
- 遺産の範囲
- 財産評価
- 特別受益等の争点
- 各相続人の取得希望
- 不動産の利用状況
- 代償金の支払可能性
などを整理しておく必要があります。
協議が進まない相続を整理する際の実務上のポイント
協議が進まないときに、最初から「相手をどう動かすか」だけを考えると、かえって時間を使うことがあります。
先に確認したいのは、
その相続人がいなくても、こちら側で何を確定できるのか
です。
たとえば、
相続人は誰なのか。
遺産には何があるのか。
預金、不動産、株式などはいくら程度なのか。
負債はあるのか。
生前贈与などの問題はあるのか。
誰がどの財産を取得したいのか。
ここまでを先に整理すれば、相手へ示す分割案も具体的になります。
逆に、財産の全体像も分からないまま、
「とにかく話し合いましょう」
と連絡しても、相手が参加する動機は生まれにくいことがあります。
資産の管理を止めないことも重要です
さらに、遺産に収益不動産や事業関係資産がある場合には、協議中にも現実は動き続けます。
賃貸マンションなら家賃が入り、修繕費や固定資産税が発生します。
同族会社の株式なら、会社は相続人間の協議が終わるのを待たずに営業を続けます。
事業用不動産なら、会社やテナントが利用を続けていることもあります。
したがって、
「遺産分割をどうするか」と「決まるまで財産をどう管理するか」
を分けて考える必要があります。
資産規模が大きくなるほど、「相続人全員が返事をするまで待つ」という時間そのものが損失につながることがあります。
自力で進められる?弁護士が必要になる場合
相続人の人数が少なく、財産も預金中心で、単に一人が遠方に住んでいるだけであれば、当事者間で進められる場合もあります。
一方で、
- 相続人が多数・全国に分散している
- 連絡しても返答しない人がいる
- 所在不明者がいる
- 不動産が複数ある
- 収益物件がある
- 非上場株式が含まれる
- 事業承継が絡んでいる
- 遺産の範囲や評価にも争いがある
という場合には、問題が「連絡を取ること」だけではなくなっています。
特に、
相手方を探す
→ 財産を確定する
→ 分割案を作る
→ 任意協議を試みる
→ 調停へ切り替える
→ 必要なら審判で判断を求める
という全体の工程をどう組むかが重要になります。
*相続人との連絡、期限への対応、証拠の整理など、まずご自身で確認しておきたいことについては、次のページにまとめています。
相続人が多い、所在不明者がいる、不動産・非上場株式など評価の必要な財産がある、事業承継にも影響するなど、問題が単なる手続ではなく相続全体の組み立てに及んでいる場合には、個別に整理する必要があります。
協議が進まない相続を弁護士に相談するメリット
弁護士へ相談する意味は、単に相手方へ手紙を送ってもらうことだけではありません。
まず、戸籍その他の資料から相続人関係を整理し、必要に応じて所在調査を行います。
次に、遺産の範囲と評価、各相続人の利害を整理し、現実的な分割案を検討します。
そのうえで、
任意協議をどこまで続けるのか。
いつ調停へ移すのか。
調停で何を前に出すのか。
審判になった場合に何が問題になるのか。
を見通して進めます。
特に、収益不動産や非上場株式など、時間の経過中にも価値・収益・経営が動く財産が含まれる場合には、単なる連絡代行では足りません。
止まっている「協議」と、止めることのできない「資産・事業」を同時に扱う必要があります。
相続人と連絡が取れず遺産分割が進まずお悩みの方へ
遺産分割が進まないと、
「相手が返事をしてくれない以上、どうしようもない」
と感じることがあります。
しかし、相手が遠方にいる場合、協議を拒否している場合、本当に所在不明の場合では、採るべき方法が違います。
重要なのは、相手から返事が来るまで漫然と待つことではありません。
相続人を確定する。
所在を調べる。
財産を整理する。
分割案を作る。
任意協議を続ける期限を決める。
必要なら調停・審判へ移す。
というように、問題を順序に分けることです。
そして、不動産、収益物件、非上場株式、事業用資産などが含まれる場合には、協議が止まっている間の資産管理や事業への影響まで考える必要があります。
当事務所では、単に「連絡の取れない相続人への対応」だけを見るのではなく、遺産全体と時間の経過を見ながら、どこまで協議し、どの時点で裁判所の手続へ切り替えるべきかを整理します。
何か月も連絡を繰り返しているものの進展がない場合や、どこから手を付けるべきか分からない場合には、まず事情をお聞かせください。
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