相続財産が預貯金だけであれば、金額を確認して相続分に応じて分けることは比較的容易です。
しかし、遺産の中心がタワーマンション、賃貸マンション、テナントビル、広い土地、別荘、海外不動産などである場合、問題は大きく変わります。
「この不動産はいくらなのか」
という評価の問題だけではありません。
誰が取得するのか。
家賃収入を誰が受け取るのか。
修繕費や管理費を誰が負担するのか。
取得する相続人は代償金を支払えるのか。
売却するなら、いつ、どのような条件で売るのか。
海外資産があれば、さらに現地の法制度、手続、為替、現地専門家との連携も必要になります。
資産額が大きくなるほど、一つの評価額だけで結論を出そうとするのではなく、資産の価値・収益・管理・換価可能性と相続人それぞれの希望を全体として整理することが重要になります。
本ページでは、高額不動産、収益物件、海外資産が含まれる遺産分割について、実務上問題となりやすい点を整理します。
目次
高額不動産・海外資産をどう分けるか
― 評価額だけでは決まらない、収益・管理・換価まで含めた遺産分割 ―
1. 不動産評価手法の違いが引き起こす大きな評価額の対立
不動産が遺産の大部分を占める相続では、
「誰が取得するか」の前に、「いくらの財産として扱うか」
が争いになることがあります。
同じ不動産について、固定資産税評価額、相続税評価額、不動産業者の査定額、不動産鑑定士の鑑定評価額など、異なる数字が現れるからです。
数億円規模の不動産で評価割合が大きく違えば、最終的な取得額や代償金にも大きな差が生じます。
1-1. 路線価・固定資産税評価額と実勢価格・鑑定評価との違い
「固定資産税評価額が1億円だから、この土地は1億円」
とは限りません。
また、
「相続税申告ではこの金額だったから、遺産分割でもこの金額」
とも限りません。
相続税のための財産評価は、相続税法や財産評価基本通達等に基づいて行われます。国税庁も、相続税申告における遺産評価についてそのように説明しています。
これに対し、遺産分割で問題となる不動産の価値は、相続人間の具体的な財産配分を決めるためのものです。
土地の立地、形状、利用状況、賃貸借関係、収益性、売却可能性などによって、現実の経済的価値は変わります。
したがって、税務上の評価と遺産分割で問題となる評価を区別することが出発点です。
近年、タワーマンションなどの税務上の評価方法も見直されていますが、遺産分割上の評価(時価)とは依然として乖離が生じ得ます
1-2. 相続人双方から異なる鑑定・査定が提出された場合
不動産の評価をめぐる争いでは、一方が不動産会社の査定書を提出し、他方が別の査定書や鑑定評価書を提出することがあります。
しかし、
「鑑定評価書を出した側が勝つ」
という単純なものではありません。
何を評価の前提としているのか。
収益物件なら、どのような賃料や経費、収益性を前提としているのか。
土地利用についてどのような条件を設定しているのか。
評価時点はいつなのか。
こうした前提の違いによって結論は変わります。
相続人間で評価について合意できなければ、遺産分割調停・審判の中で評価が争われ、必要に応じて鑑定が問題になることがあります。
重要なのは、自分に有利な数字を一つ提示することではなく、その数字を支える評価条件を明らかにすることです。
1-3. 評価額の違いが代償金交渉を左右する
たとえば、長男が収益物件を取得し、他の相続人に代償金を支払う場合を考えます。
物件評価額が3億円なのか4億円なのかによって、必要な代償金は大きく変わります。
そのため、
「高く評価したい相続人」
と、
「低く評価したい取得希望者」
が対立しやすくなります。
しかし、評価額だけを争い続けることが常に合理的とは限りません。
鑑定費用、調停・審判に要する時間、将来の修繕費、借入金、売却時の費用、賃貸経営のリスクなどもあります。
評価額をどこまで争えば最終的な取得額がどれだけ変わるのか
を見ながら、交渉に使うべき争点と、合意できる範囲を分けて考える必要があります。
1-4. タワーマンション・大規模土地など、評価が複雑な不動産
高額不動産では、その種類によって評価上の問題も異なります。
タワーマンションであれば、所在階、眺望、方角、専有面積、管理状況などが市場価値に影響します。
広い土地であれば、形状、接道、利用状況、開発可能性、法令上の規制などによって価値が変わります。
賃貸中の土地・建物であれば、賃貸借関係や収益性も無視できません。
したがって、
「路線価の何倍」「固定資産税評価額の何倍」
という一律の計算だけで遺産分割上の価値を決めるのは適切でない場合があります。
近年、タワーマンションなどの税務上の評価方法も見直されていますが、遺産分割上の評価(時価)とは依然として乖離が生じ得ます。
補:タワーマンション等の評価に関する税務ルールの改定
令和6年(2024年)1月1日以降に取得した居住用区分所有財産(分譲マンション)については、国税庁の法令解釈通達「居住用の区分所有財産の評価について」が適用され、市場価格との乖離を補正する新たな評価方法(区分所有補正率)が導入されました。
2. 収益不動産の管理と賃料をめぐる紛争
賃貸マンションやビルは、預金や自宅不動産とは異なります。
相続が発生した後も、
毎月、家賃が入り、同時に費用も発生し続ける
からです。
遺産分割が長期化すると、「物件を誰が取得するか」という問題とは別に、その間の収入と支出をどう整理するかが問題になります。
2-1. 遺産分割が決まるまでの賃料収入をどう分けるか
相続開始後に発生する賃料については、単純に、
「物件を最後に取得した人が、それまでの家賃も全部取得する」
とは考えません。
共同相続された賃貸不動産から相続開始後に生じる賃料債権については、遺産そのものとは別に考える必要があります。
一人の相続人が家賃をすべて受領していた場合には、他の相続人との間で清算が問題になることがあります。
ただし、請求の法的構成をすべて「不当利得」と決めつけることは適切ではありません。
誰が、どの権限で、いつから、いくら受領し、どの費用を支払ったのか
を整理する必要があります。
2-2. 管理会社と管理費用をめぐる対立
収益物件では、管理を誰が行っているかも重要です。
被相続人自身の資産管理会社が管理している場合もあれば、相続人の一人が事実上管理を引き継いでいる場合もあります。
ここで、
「管理会社へ支払っている費用は適正なのか」
「相続人の一人が勝手に管理会社を動かしていないか」
「管理会社自体の株式は誰が相続するのか」
という別の問題が生じることがあります。
特に同族の資産管理会社が介在する場合には、不動産の相続と会社の支配権を分けて整理する必要があります。
2-3. 老朽化不動産の修繕・売却をめぐる意見の違い
築年数の経過したマンションやビルでは、遺産分割中にも修繕が必要になります。
外壁、屋上防水、給排水設備、エレベーター、暖房設備など、多額の費用が必要になることがあります。
北海道では、除排雪、ロードヒーティング、凍結対策など地域特有の維持費も無視できません。
一人は、
「今売った方がよい」
と言い、別の相続人は、
「修繕して保有すればまだ収益が上がる」
と考える。
このような場合には、現在の価格だけではなく、将来の収益と費用を誰が引き受けるのかまで考える必要があります。
2-4. 現物分割・代償分割・換価分割・共有
不動産の分け方には、大きくいくつかの方法があります。
現物をそれぞれ取得する方法。
一人が不動産を取得し、他の相続人へ金銭を支払う代償分割。
不動産を売却して代金を分ける換価分割。
そして共有状態を残す方法です。
どれが正しいというものではありません。
収益性、売却可能性、借入金、相続人の資力、管理能力、将来の利用予定などによって変わります。
ただし、
「今決められないから、とりあえず共有」
には注意が必要です。
売却、建替え、大規模修繕などをめぐって再び意見が対立し、次の世代への相続によって共有者がさらに増えることもあります。
3. 海外不動産・海外口座が含まれる国際相続
被相続人が海外にマンションを所有していた。
海外の金融機関に預金や証券口座がある。
海外で事業をしていた。
このような場合、日本国内だけで完結する相続とは異なる問題が生じます。
なお、海外財産であっても一定の場合には日本の相続税の課税対象となります。国税庁も、被相続人・相続人の住所や国籍等によって国外財産が課税対象となる場合を説明しています。
3-1. 相続に適用される法律と現地手続を分けて考える
海外資産があるから、
「すべて外国法で相続する」
とは限りません。
逆に、
「日本人の相続だから日本の遺産分割協議書だけですべて処理できる」
とも限りません。
まず相続関係にどの国の法律が適用されるかを検討します。
そのうえで、不動産や預金口座が所在する国・地域で、実際に名義変更や資産移転をするためにどのような手続が必要なのかを確認します。
国や地域によっては、裁判所等が関与するプロベートなど、日本の相続手続とは異なる制度があります。
つまり、
「誰が相続するか」という準拠法の問題と、「現地でどう資産を移すか」という手続の問題を分ける
必要があります。
3-2. 外貨建て資産の評価時点と為替変動
海外口座や海外不動産では、現地通貨での価値だけではなく為替も問題になります。
相続開始時には1ドル○円だった。
遺産分割時には大きく円安・円高になっていた。
売却時にはさらに変動していた。
このような場合、
何のための評価なのか、どの時点の価値を問題としているのか
を区別しなければなりません。
相続税については、相続により財産を取得した時の価額で評価するのが原則です。
一方、遺産分割の交渉では、その後の資産価値や為替変動も現実の利害に影響します。
税務上の評価と、相続人間の分割交渉を混同しないことが重要です。
3-3. 現地の弁護士・税務専門家等との連携
海外資産を実際に処理するには、日本の弁護士だけですべての現地手続を完結できるとは限りません。
現地の弁護士、会計・税務専門家、金融機関、不動産関係者などとの連携が必要になる場合があります。
また、日本で作成した戸籍、遺言書、遺産分割協議書等について、翻訳や認証などが必要になることもあります。
重要なのは、
日本側と海外側の専門家が別々に動くのではなく、最終的に誰がどの資産を取得するのかという全体像を共有すること
です。
3-4. 海外資産が開示されていない疑いがある場合
海外資産について、
「父は海外にも口座を持っていたはずだ」
「海外不動産を売却した代金が見当たらない」
という問題が生じることがあります。
しかし、海外にあるというだけで、日本から自由に情報を取得できるわけではありません。
まず、国内に残っている資料を確認します。
送金記録、銀行取引、外国金融機関からの郵便・メール、確定申告資料、国外財産に関する資料、不動産関係書類などから資産の存在を特定していきます。
そのうえで、対象国の制度や金融機関等に応じて、現地専門家を通じた調査・照会の可能性を検討します。
「海外に隠したはずだ」という疑いと、実際に調査可能な資産情報を区別することが必要です。
4. 複雑な高額不動産の遺産分割をどう収束させるか
高額不動産をめぐる紛争では、すべての論点を最後まで争うことが最善とは限りません。
- 評価額
- 賃料
- 修繕費
- 代償金
- 売却条件
- 海外資産
争点が増えるほど、一つ一つを争うための時間と費用も増えていきます。
重要なのは、最終的な遺産分割を動かす争点がどこにあるのかを見極めることです。
4-1. 相手方の評価額主張を検証する
相手方から高額あるいは低額な評価が提示されたとき、単に、
「その金額には納得できない」
と反論するだけでは足りません。
査定・鑑定の前提、評価時点、賃貸借関係、収益性、修繕状況、土地利用上の制約などを確認します。
そして、
評価の違いがどこから生じているのか
を具体的に示します。
評価額そのものより、評価を支える前提条件を争う方が有効なこともあります。
4-2. 不動産鑑定士と弁護士の役割を分ける
不動産鑑定士は不動産の経済的価値を評価する専門家です。
一方、弁護士の役割は、
その評価が遺産分割のどの争点に必要なのか、どこまで立証する必要があるのか、評価差が最終的な取得額にどの程度影響するのか
を整理することにあります。
したがって、先に高額な鑑定を依頼すればよいとは限りません。
まず争点を整理し、
鑑定に費用をかける意味がある案件なのか
を判断することも重要です。
4-3. 代償金と売却を組み合わせて共有を残さない
一人の相続人が不動産を取得したい場合でも、十分な代償金を用意できないことがあります。
だからといって、直ちに共有にするしかないわけではありません。
複数不動産の一部を売却する。
預貯金等を他の相続人へ多く配分する。
融資可能性を検討する。
収益物件と非収益資産を組み合わせる。
こうした方法を検討することで、共有状態を残さずに分割できる場合があります。
「不動産を残すか全部売るか」の二択ではなく、遺産全体を組み替えるという発想が必要です。
4-4. 相続税の10か月と遺産分割の時間を区別する
相続税の申告・納税期限は、原則として、相続開始を知った日の翌日から10か月以内です。
しかし、
10か月以内に遺産分割を必ず成立させなければならない、という意味ではありません。
遺産が未分割であっても申告期限は延長されず、原則として法定相続分等に従って取得したものとして計算し、申告することになります。
したがって、高額不動産の評価や海外資産の調査に時間が必要な案件では、
税務上いつまでに何をしなければならないか
と、
民事上どこまで調査・交渉してから遺産分割を成立させるべきか
を分けてスケジュール管理する必要があります。
税務期限だけを理由に不十分な条件で遺産分割を急ぐことも、逆に紛争中だからと相続税申告を放置することも避けなければなりません。
まとめ──高額不動産では「価格」だけでなく、資産全体を見る
高額不動産が含まれる遺産分割では、
「この土地はいくらか」
という一点だけを争っても、問題全体は解決しないことがあります。
収益物件であれば、賃料、管理、修繕、将来の収益性があります。
複数不動産があれば、どの資産を誰に配置するかという問題があります。
海外資産があれば、準拠法、現地手続、為替、海外専門家との連携も加わります。
さらに、相続税申告には別の時間軸があります。
そのため当事務所では、高額不動産を含む相続について、個々の不動産価格だけを見るのではなく、
財産の評価、収益、管理、換価可能性、代償金、税務上の期限、相続人間の関係
を全体として整理し、どこで紛争を収束させるのかを検討します。
収益不動産や複数の高額不動産、海外資産が含まれ、単純な遺産分割では整理できない場合には、事情をお聞かせください。
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